日本の推理小説史において、その難解さ、特異な構成、衒学的な内容から「三大奇書」と呼ばれる三つのミステリー作品です。夢野久作『ドグラ・マグラ』、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』を指します。「読むと精神に異常をきたす」などの伝説を持つ作品も含まれます。
A.三作とも、その難解さ、特異な構成、衒学的な内容から奇書と呼ばれています。『ドグラ・マグラ』は形式の異なる文書がコラージュのように挿入されて現実と幻覚の境界が溶けていく構成、『黒死館殺人事件』はあらゆる分野の知識が注ぎ込まれる衒学、『虚無への供物』は推理することの意味を問い直す「アンチ・ミステリー」の作りが特徴です。
A.最初に世に出たのは『黒死館殺人事件』で、雑誌『新青年』の1934年4月号から連載され、1935年5月に単行本になりました。『ドグラ・マグラ』は1935年1月に書き下ろしで刊行されています。『虚無への供物』はずっと後の1964年2月に講談社から刊行されました。
A.三作とも江戸川乱歩が評価の言葉を残しています。『黒死館殺人事件』の初版には序文を寄せて絶賛し、『ドグラ・マグラ』は「わけのわからぬ小説」と評しつつも戦前変格探偵小説の一頂点と称賛しました。『虚無への供物』は江戸川乱歩賞で次席となった作品で、選考委員の乱歩は「冗談小説」と呼びました。
A.『ドグラ・マグラ』は九州帝国大学精神病科の病室で、記憶を失った青年が目を覚ます場面から始まります。『黒死館殺人事件』は神奈川県の郊外に建つ降矢木家の城館「黒死館」、『虚無への供物』は1954年の暮れの東京の旧家・氷沼家が舞台です。
A.長崎地方の方言でキリシタンの幻魔術や「戸惑う」といった意味とされますが、詳しい由来は明らかになっていません。作者の夢野久作は構想と執筆に10年以上を費やし、「本書を読破した者は必ず一度は精神に異常を来す」との宣伝文句でも知られます。