【概要】
小栗虫太郎の代表作。異国情緒あふれる洋館「黒死館」で起こる連続殺人事件を描く。衒学(ペダントリー)的な知識が奔流のように溢れ出し、難解なトリックと怪奇的な雰囲気が特徴。
【歴史】
黒死館殺人事件は、小栗虫太郎が雑誌『新青年』の1934年4月号から12月号にかけて連載し、翌1935年5月に新潮社から単行本が刊行された長編探偵小説です。初版には江戸川乱歩と甲賀三郎が序文を寄せ、乱歩は「世界の探偵文学史上に、あらゆる流派を超越した一つの地位を要求出来るであろう」と絶賛しました。小栗は前年に『完全犯罪』で『新青年』からデビューしたばかりでした。
【特徴】
最大の特徴は、神秘学、魔術、紋章学、暗号、中世神学から音楽理論まで、あらゆる分野の知識が奔流のように注ぎ込まれる衒学(ペダントリー)です。探偵・法水麟太郎の推理は常人の理解を超えた形而上学的な論理で展開され、読者は謎解きよりも作者が築き上げた絢爛で怪奇なゴシック的世界に浸ることになります。装飾過多で難解な文体は、一度はまると抜け出せない中毒性を持ちます。
【あらすじ】
舞台は神奈川県の郊外に建つ降矢木家の城館「黒死館」。過去に変死事件が相次いだ不吉な館では、当主の算哲が不可解な自殺を遂げた後、館に住み込む四人の外国人楽団員の一人ダンネベルク夫人が毒殺されます。刑事弁護士の法水麟太郎が捜査に乗り出しますが屋敷の住人は次々と襲われ、黒死館殺人事件は館に秘められた降矢木家の血の因縁へと迫っていきます。
【トリビア】
小栗虫太郎は本作を貧乏長屋暮らしの中で書き上げ、後に「あのときは悪魔が憑いていた」と語ったと伝わります。作中の膨大な引用や学説には作者の創作や誤りも含まれるとされ、その真偽を検証する研究書まで出版されています。2024年には連載90年を記念した小栗虫太郎展が開かれました。黒死館殺人事件は『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』と並ぶ日本三大奇書の一つとして今も読み継がれています。




