【概要】
夫・民谷伊右衛門に裏切られ、毒薬で顔を変えられた末に非業の死を遂げたお岩が、亡霊となって復讐する物語です。鶴屋南北の歌舞伎『東海道四谷怪談』で有名となり、お岩稲荷田宮神社には今も多くの参拝客が訪れています。
【歴史】
「四谷怪談」は1825年(文政8年)に江戸歌舞伎の名作者・四代目鶴屋南北が書き下ろした怪談劇で、正式には「東海道四谷怪談」といいます。忠臣蔵の外伝として構想され、赤穂浪士の討ち入りを背景に、お岩という女性の悲劇と復讐を描きました。江戸中村座での初演から二百年を超えた今も、歌舞伎をはじめ映画やドラマで繰り返し取り上げられています。お岩のモデルには諸説あり、田宮家の娘「於岩」を実在の人物とする説が有力です。
【特徴】
四谷怪談は、夫の伊右衛門に毒を盛られて顔が崩れたお岩が、非業の死を遂げたのちに幽霊となって復讐する物語です。提灯抜けや戸板返しといった歌舞伎ならではの仕掛け(ケレン)を駆使した演出が見どころで、なかでもお岩の髪が抜け落ちる「髪梳き」の場面は観客を震撼させてきました。鶴屋南北は庶民の怨念や社会の暗部を生々しく描く作風で知られ、四谷怪談はその集大成と言える作品です。
【見どころ】
東京都新宿区には「於岩稲荷田宮神社」と「於岩稲荷陽運寺」が向かい合って建ち、怪談ゆかりの地として参拝者を集めています。田宮家の屋敷神を起源とする神社は明治の火災でいったん移転し、のちにこの地へ戻ってきました。四谷怪談を上演する際には、俳優やスタッフが揃って参拝し、公演の無事を祈るのが古くからの慣例です。境内は都心とは思えないほど静かで、物語の余韻に浸れる場所になっています。
【トリビア】
四谷怪談に関わる俳優やスタッフが参拝を欠かさないのは、怠ると祟りがあると恐れられてきたためです。過去の公演で怪我や事故が起きた例も語り継がれ、関係者は今も畏敬の念をもって作品に向き合っています。一方で、モデルとされる田宮家の於岩は夫婦仲が良かったという説もあり、怪談とはまるで違う実像が浮かび上がります。於岩は1636年(寛永13年)に世を去ったと伝えられています。
