【概要】
江戸時代前期の俳人。「俳聖」と称される。それまで遊戯的な文芸であった俳諧を、高い芸術性と精神性を持つ「蕉風俳諧」へと昇華させた。『奥の細道』などの紀行文も有名。「古池や蛙飛びこむ水の音」は世界的に知られる。
【歴史】
松尾芭蕉は寛永21年(1644年)、伊賀国上野の地に生まれた江戸時代前期の俳諧師です。生誕地は現在の三重県伊賀市にあたり、若い頃は藤堂家に仕えながら俳諧に親しみました。三十代で江戸に下り、深川の草庵に居を構えると、言葉遊びに傾いていた俳諧を句そのものの詩情で深める道を模索します。元禄2年(1689年)には門人の曾良を伴い、代表作『おくのほそ道』を生む東北・北陸の旅へ出発しました。
【特徴】
芭蕉が確立した句風は「蕉風」と呼ばれ、滑稽や機知を競う従来の俳諧とは異なり、自然と向き合う静かな感動を一句に凝縮する点に特徴があります。「古池や蛙飛びこむ水の音」に代表される閑寂の美は、のちに「わび」「さび」「軽み」といった言葉で語られました。人生そのものを旅と捉え、旅先の風景と自らの心境を重ね合わせて詠み続けた松尾芭蕉は、俳聖と仰がれるようになりました。
【見どころ】
『おくのほそ道』の旅は元禄2年3月に江戸を発ち、奥羽から北陸を巡って8月に大垣へ至る、約2400キロ・150日ほどの長旅でした。平泉の中尊寺や山形の立石寺、秋田の象潟など、句が詠まれた土地の多くは、今も句碑とともに訪ねることができます。生誕地の伊賀上野には芭蕉翁記念館や生家、旅姿をかたどった俳聖殿が建ち、毎年秋に営まれる芭蕉祭には全国の愛好者が集います。
【トリビア】
四十代半ばで東北や北陸を歩き通した健脚ぶりや、育った伊賀が忍者の里であったことから、松尾芭蕉は幕府の隠密だったのではないかという説が古くから語られてきました。ただし裏付けとなる史料はなく、あくまで後世の想像に基づく俗説とされています。芭蕉は元禄7年(1694年)に旅の途上の大坂で没し、「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」が最後の句として伝わっています。




