【概要】
肥薩線の矢岳越え(矢岳駅 - 真幸駅間)の車窓からは、えびの高原や霧島連山を遠望する壮大な景色が広がる。トンネルを抜けた瞬間に広がる絶景は多くの鉄道ファンを魅了してきたが、2020年の豪雨災害により長期運休中である。
【歴史】
矢岳(肥薩線)は、熊本県人吉市にある矢岳駅の周辺から霧島連山とえびの高原を望む車窓です。矢岳駅は1909年(明治42年)11月に開業し、当時の鹿児島本線として人吉と吉松を結ぶ山越えの要となりました。長大な矢岳第一トンネルの掘削は湧き水と硬い岩盤に阻まれる難工事で、貫通までに多くの人手と歳月が費やされたと伝わります。九州を南北に貫く大動脈として建設された路線でした。
【特徴】
矢岳駅は標高536.9メートルにあり、肥薩線でもっとも高い場所に置かれた駅です。ひとつ手前の大畑駅にはループ線とスイッチバックが組み合わされ、この二つを併せ持つ駅は全国でもここだけとされています。大畑駅との標高差はおよそ243メートルにのぼり、最大33.3パーミルという急勾配を直径600メートルほどのループで登る、明治の土木技術を今に伝える鉄路です。
【見どころ】
矢岳越えの絶景は、矢岳第一トンネルと矢岳第二トンネルの間で不意に車窓へ現れます。暗いトンネルを抜けた瞬間、加久藤カルデラの向こうに霧島連山とえびの高原が広がる光景は、多くの旅人の記憶に刻まれてきました。観光列車は徐行や停車で眺めを楽しませる工夫をしており、明治期の木造駅舎が今も残る矢岳駅そのものも、味わい深い立ち寄り先となっており、周辺には静かな山里の風景が続いています。
【トリビア】
矢岳駅には1972年に設けられたSL展示館があり、かつて峠越えの補強を受けて活躍した蒸気機関車D51形170号機が保存されています。かつては8620形の58654号機も並んでいましたが、こちらは復活して観光列車として走りました。2020年7月の豪雨で肥薩線は八代と吉松の間が被災し、矢岳越えを含む人吉と吉松の間は運休が続き、復旧を願う声が今も各地から寄せられています。




