【概要】
京都市北区上賀茂の大田神社の境内に広がる沢で、約2万5千株のカキツバタが自生しています。平安時代の歌人・藤原俊成が歌に詠んだことで知られ、1939年に国の天然記念物に指定されました。5月上旬から中旬が見頃で、上賀茂神社の参拝と合わせて訪れる人でにぎわいます。
【歴史】
大田神社は上賀茂神社の境外摂社で、賀茂の地に最も古くから鎮座する社の一つとされます。その参道脇に広がる大田ノ沢は、平安時代にはすでにカキツバタの名所として知られ、1190年に歌人の藤原俊成が「神山や大田の沢のかきつばた ふかきたのみは色に見ゆらむ」と詠んでいます。千年近く変わらぬ景観を残す貴重な自生地として、1939年に国の天然記念物に指定されました。
【特徴】
大田ノ沢は約2千平方メートルの湿地で、約2万5千株ものカキツバタが群生し、見頃の5月上旬から中旬には沢一面が紫に染まります。京都市北部の神山から流れ出る湧き水が沢を潤しており、水温の低い清らかな水がカキツバタの生育に適した環境を保っています。神社の森に囲まれた薄暗い沢に、光を受けた紫の花が浮かび上がる光景は、都市の中とは思えない静けさに満ちています。
【見どころ】
京都市営バスの上賀茂神社前から徒歩10分ほどで、上賀茂神社から社家町の美しい町並みを抜けて歩くのがおすすめです。開花期には沢の脇の小道から花を眺められ、早朝や雨上がりには花の色がいっそう鮮やかに見えます。大田神社の本殿は上賀茂神社と同じ流造で、境内にある大田の小径からは神山の豊かな緑を望めます。周辺には京都ならではの和菓子店も点在しています。
【トリビア】
大田神社に伝わる巫女神楽のちゃんぽん神楽は京都市の登録無形民俗文化財で、鈴と太鼓の音から名が付いたと伝えられます。カキツバタの群落は近年、鹿の食害や地下水の減少で株が減るなど危機にも直面し、氏子や市民が柵を設けたり水を補うなどして保全に努めてきました。俊成の歌に詠まれた「ふかきたのみ」を、今も守り続ける人々の思いに重ねて花を眺めるのも一興です。




