【概要】
小泉夜雨は、手子神社のあたりから、夜の雨にけむる入江ぞいの一本道を眺めた景色で、金沢八景のひとつです。目に映る景色よりも、闇のなかの雨音や湿った空気を味わう題といえます。道が沿っていた入江は江戸時代から田畑に変わり、いまは住宅の建ち並ぶ町になっていて、社の小さな木立だけがかつての情景をしのぶ手がかりになっています。
【歴史】
小泉は、金沢の入江の奥にあった土地の名で、手子神社はそのほとりに祀られてきた小さな社です。元禄七年にあたる1694年に心越禅師が能見堂から金沢の眺めを詠んだとき、瀟湘八景の瀟湘夜雨にあたる題として、この入江ぞいの夜の雨が選ばれたと伝えられています。神奈川県横浜市金沢区にある社の境内は、いまも地元の人々の手で守られています。
【特徴】
夜雨という題は、景色を目で見るよりも、闇のなかで雨音を聞き、しっとりとした空気を肌で感じる情景を指しています。横浜市の解説では、歌川広重の小泉夜雨は、手子神社の付近から雨の降る夜に入江ぞいの一本道を望んだ様子とされています。八景のなかでも色数を抑えた静かな一枚で、ほかの七景の明るい海辺の景色とよい対照をなしています。
【見どころ】
入江は江戸時代から新田として埋め立てが進み、近代以降の開発で一帯は住宅地に姿を変えました。いま手子神社の前に立っても、水辺も入江ぞいの一本道も目にすることはできません。それでも雨の夜に社の木立を見上げると、街灯のにじむ道に題の名残を感じられます。住宅地のなかの社なので、訪ねるときは静かにお参りするよう心がけてください。
【トリビア】
瀟湘八景を地名に置きかえた八景では、近江八景の唐崎夜雨が松に降る雨を選んだように、夜雨の舞台に社や木立を選ぶことがよくあり、小泉夜雨もその型にならっています。広重はこの景色を、八枚揃いの金沢八景のほかに、金沢八勝と題した別の揃い物でも描いており、同じ夜雨を構図を変えて描き分けた作品として見比べることができます。
