【概要】
南北朝時代、南朝の中心人物であった北畠親房が、小田城(常陸国)で著しました。神代から後村上天皇までの皇位継承の正統性を論じ、南朝の正当性を主張した政治色の強い史論です。
【歴史】
神皇正統記は、南北朝時代の一三三九年に、南朝の重臣であった北畠親房が著した史論書です。親房は前年の暴風によって常陸国に漂着し、茨城県つくば市にある小田城を拠点として、関東の南朝勢力の結集に力を注ぎました。この城中で板の間に座して本書を書き上げ、のちに幼い後村上天皇へ献じたと伝えられており、君主のあるべき姿を説いた帝王学の書としての性格も併せ持っています。
【特徴】
冒頭に置かれた「大日本は神国なり」という一文であまりにも有名で、神代から後村上天皇までの皇位継承の経緯を歴代ごとにたどりながら、正統が南朝の大覚寺統にあることを論じています。歴代天皇の即位や改元、享年を記しながら、天皇の地位の尊さを三種の神器の徳と結び付けて説いており、単なる年代記ではなく、皇統の正当性を理論づけた思想書として周到に組み立てられています。
【作品背景】
執筆当時の親房は、劣勢の南朝方を率いて関東で北朝方と対峙しており、神皇正統記は味方の武士たちを結束させるための政治的な主張の書でもありました。名分を正すことに力点を置きながらも、歴代天皇の治世の善悪や政変の因果にまで踏み込んでおり、歴史から統治の教訓を引き出そうとする姿勢がはっきりと表れた一書となっています。伊勢神道の学説を取り入れている点も特徴です。
【トリビア】
本書が説いた神国思想と皇統の正統論は、江戸時代の水戸学や国学に受け継がれ、幕末の尊皇思想を通じて明治維新を支える精神的な柱の一つになるなど、日本人の歴史観に長く影響を及ぼし続けました。執筆の地と伝わる小田城跡は国の史跡として整備されており、併設の案内施設では、暴風で常陸に流れ着いてからの北畠親房の関東での動きと、本書が生まれた経緯をあわせて知ることができます。




