【概要】
今津郷は灘五郷のいちばん東に位置し、兵庫県西宮市にある今津の一帯を指します。正徳元年(1711年)創業の大関を筆頭に、今津港から樽廻船で江戸へ酒を送り出した江戸積みの拠点で、灘目三郷の一つとして早くから名を知られました。蔵の数は五郷で最も少ないものの、木造の今津灯台が往時の港のにぎわいを今に伝えています。
【歴史】
今津郷の酒造りは、正徳元年(1711年)に初代大坂屋長兵衛が今津の地で酒を醸したことに始まるとされます。明和9年(1772年)に上方の酒造業者が摂泉十二郷酒造仲間を結成すると、今津郷は上灘郷・下灘郷と並ぶ灘目三郷の一つとして名を連ね、江戸へ酒を送る江戸積みの担い手になりました。文政11年(1828年)に上灘郷が三つに分かれたのちも、今津郷は独立した郷として残り続けています。
【特徴】
今津郷の強みは、今津港という積み出し口を郷の内に持っていたことです。樽詰めの酒は目の前の浜から樽廻船に積まれ、江戸では「下り酒」と呼ばれて高い評判を得ました。仕込みには西宮で湧く宮水を用い、冬に六甲颪が吹き下ろす寒冷な気候を生かした寒造りで酒質を整えます。現在は大関と今津酒造が灘五郷酒造組合に名を連ね、五つの郷のなかでは蔵の数が最も少ない郷となっています。
【見どころ】
郷の象徴は木造の今津灯台です。文化7年(1810年)に大関の創業家である長部家五代目の大坂屋長兵衛が私財を投じて常夜灯を建てたもので、現存する灯体は安政5年(1858年)に六代目文次郎が再建したものと伝わります。津波対策の水門工事にともなって2023年から2024年にかけて南西へおよそ160メートル移され、2024年4月に移設先で再び灯がともりました。
【トリビア】
今津郷は日本のカップ酒が生まれた場所でもあります。大関が1964年の東京オリンピック開会の日に売り出した「ワンカップ大関」は、一合を小さなガラス容器に詰めた国内で初めてのカップ入り清酒で、駅や行楽地で気軽に飲める酒として広まりました。発売から六十年を超えた今もカップ酒の定番として知られ、今津郷の名を全国に伝える役割を果たしています。




