【概要】
長野県と岐阜県の県境、北アルプスの南岳と北穂高岳の間に位置する凄絶なV字状の岩稜帯です。国内の一般登山ルートとしては最高難度を誇り、痩せた岩尾根や「飛騨泣き」と呼ばれる垂直に近い岩壁など、息を呑むような絶景とスリルを味わえるアルピニスト憧れの難所として知られています。
【歴史】
北アルプスの開拓時代から数多くの登山家が己の限界に挑んできた、国内屈指の難所中の難所として知られています。古くから山岳信仰の修験者でさえも容易には近づけなかったとされるこの恐ろしい岩稜帯は、大正時代以降の近代アルピニズムの急速な発展とともに、多くの先人たちの血のにじむようなルート工作や鉄鎖・ハシゴの整備が進められ、現在のような縦走路がようやく確立されました。日本の登山史において数々の壮絶なドラマと歴史が深く刻まれている、特別な意味を持つ場所なのです。
【特徴】
大キレットの最大の特徴は、その名の通り刃物で深くえぐり取られたかのように大きく切れ込んだ「V字型」の巨大な谷地形にあります。標高約3,000mの稜線上から一気呵成に数百メートルも切れ落ちる、常に死の恐怖と隣り合わせの断崖絶壁の岩場が延々と続き、一歩のミスも許されません。強風や落石の危険に晒されながら、三点支持を用いた確実な岩登り技術と、長時間の極めて高い精神的集中力が連続して要求されるため、国内の一般登山道としては最高レベルの総合的な技術が必要となる非常に厳しい地形です。
【見どころ】
特筆すべき大きな見どころとなるのは、ルートの中間地点にそびえる核心部「長谷川ピーク」や、その先の「飛騨泣き」と呼ばれる超絶な高難易度の難所越えです。両側がスッパリと切れ落ち、刃物のようにもたげる岩稜にまたがりながら慎重に越え、ふと振り返った時に目に飛び込んでくる槍ヶ岳や穂高連峰の威容は言葉を失うほどの迫力です。ここでしか絶対に見ることのできない地球の力強さを感じさせる圧倒的なスケール感と神々しい美しさを誇り、己の力で登り切った者だけが最高到達点で存分に味わえる究極のアルペン絶景です。
【トリビア】
「キレット」というとてもユニークな響きの言葉は、日本語の「切戸(きれと)」または「切れ処」が語源であると言われています。山脈の稜線が一部だけ不自然に鋭く深く切れ込んだ場所を指す専門的な登山用語であり、その音の響きから和製ドイツ語やアイヌ語などからの外来語と勘違いされることも多々ありますが、実は純粋な日本語由来の言葉がカタカナ表記で登山の世界に定着したという、非常に珍しく興味深い歴史的背景を持っています。




