【概要】
水鏡は、鎌倉時代の初めごろに成立したとされる歴史物語で、神武天皇から仁明天皇までの、大鏡より前の時代を年代順にたどります。73歳の老女が厄年の祈りのため大和の龍蓋寺に詣で、続いて長谷寺に籠もった折に、葛城山で仙人から昔の話を聞いたという修行者に出会うという趣向です。地図には、老女が最初に詣でた龍蓋寺、現在の岡寺を置いています。
【歴史】
水鏡の作者は中山忠親とする説が有力ですが、源雅頼とする説もあり、確かなことはわかっていません。成立は12世紀の終わりから鎌倉時代の初めごろとみられ、成立の順では大鏡、今鏡に続く三番目にあたります。全3巻で、内容の多くは平安時代の歴史書である扶桑略記をもとにしており、そこへ仏教の霊験譚や不思議な話を織り交ぜて読み物に仕立てています。
【特徴】
水鏡は、帝の代ごとに出来事を年代順に記す編年体で書かれ、紀伝体の大鏡とは書き方が異なります。仙人が見聞きした太古の出来事を修行者が伝え、それを老女が書き留めるという三重の語りになっている点も独特です。仏教の因果や霊験を重んじる語り口には、末法の世を強く意識した鎌倉時代初めの空気がうかがえるとされ、大鏡とは違う味わいがあります。
【作品背景】
龍蓋寺は奈良県明日香村にある真言宗豊山派の寺で、岡寺の名で広く親しまれています。奈良時代の僧義淵が、村を荒らす龍を池に封じ込めて大きな石でふたをしたという伝説が寺名の由来とされ、日本最初の厄除け霊場を名のってきました。水鏡の老女が厄年を迎えてまずこの寺に詣でたのも、厄除けの観音として名高かったからと考えられます。
【トリビア】
水鏡は歴史書としての信頼性が低く、荒唐無稽な話が多いとも評されますが、神武天皇以来の歴史を物語としてたどれる読みやすさが魅力です。岡寺は西国三十三所の第7番、長谷寺は第8番の札所で、飛鳥から初瀬の谷へ向かう道のりは、水鏡の老女がたどった大和の観音詣でとちょうど重なります。今も巡礼の人々が二つの寺を続けて訪ねています。
