【概要】
今鏡は、平安時代末期の1170年ごろに成立したとされる歴史物語で、大鏡のあとを受けて1025年から1170年までのおよそ146年を描きます。語り手は大宅世継の孫で、かつて紫式部に仕えてあやめと呼ばれた150歳を超える老女です。長谷寺へ参詣する人々が道中でこの老女に出会い、昔語りを聞くという形をとるため、奈良県桜井市にある長谷寺をゆかりの地としています。
【歴史】
今鏡の作者は、藤原為経とする説が有力とされています。為経は出家して寂超と名のった歌人で、寂念、寂然の兄弟とともに常磐三寂や大原三寂と呼ばれました。序に嘉応2年にあたる1170年の語りと記されていることから、成立もそのころとみられています。続世継や小鏡という別名もあり、大鏡の続きを語る書物として読み継がれてきました。
【特徴】
今鏡は全10巻で、帝の歴史を記すすべらぎ、藤原氏を扱う藤波、村上源氏、御子たち、そして昔語や打聞と巻が分かれます。大鏡の紀伝体を受け継ぎつつ、政争への批評よりも宮廷の儀式や和歌、管弦、恋の逸話を穏やかな筆致で書き留めている点が特色です。白河院政から保元・平治の乱を経た時代を扱いながら、王朝文化への憧れが全編ににじんでいます。
【作品背景】
長谷寺は、奈良県桜井市にある真言宗豊山派の総本山で、十一面観音を本尊とします。平安時代の都の人々は願いを託して初瀬の観音に詣でることを好み、源氏物語や更級日記にも長谷寺への旅が描かれています。今鏡が老女との出会いを長谷寺参りの道中に置いたのも、こうした初瀬詣での流行を背景にしたものと考えられ、当時の読者には親しみ深い場面でした。
【トリビア】
今鏡の最後の巻には作り物語のゆくへと呼ばれる一節があり、源氏物語を書いた紫式部が作り事を書いた罪で地獄に落ちたという当時の噂に、語り手のあやめが反論します。かつて紫式部に仕えたという設定がここで生き、物語も人を仏の道へ導く方便になると説いています。和歌や物語を愛した作者の考えがよく表れた場面として、研究者の注目を集めてきました。
