【概要】
北海道ニセコエリアの山深くに位置する「ニセコ薬師温泉」は、かつて日本三大秘湯の一つとして数えられた名湯です。3種類の異なる源泉を持ち、特に足元から湧き出る透明な湯、濁り湯などが楽しめました。残念ながら2014年に閉館しましたが、その神秘的な佇まいと効能豊かな湯は、今も多くの秘湯ファンの記憶に残っています。
【歴史】
ニセコ薬師温泉は北海道蘭越町の山中にあった一軒宿の温泉で、明治二十四年(一八九一年)に湯宿が開かれたと伝わります。ニセコの山々に抱かれた深い森の奥にあり、道路事情の悪かった時代には、たどり着くこと自体が困難だったため、長く「幻の湯」と呼ばれてきました。青森の谷地温泉、徳島の祖谷温泉とともに日本三大秘湯に数えられ、全国の温泉愛好家があこがれた名湯です。
【特徴】
ニセコ薬師温泉の身上は、浴槽そのものが源泉だったことにあります。三つの湯船はいずれも底から湯が湧き上がる足元自噴で、加水も加温もしない生まれたままの湯に身を沈めることができました。泉質はナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉で、浸かっているうちに肌へ細かな炭酸の泡がまとわりつくのが特徴でした。木造の湯小屋と飾り気のないたたずまいも、秘湯の名にふさわしいものでした。
【見どころ】
ニセコ薬師温泉は二〇一四年に閉館し、現在は入浴することができません。建物も雪の重みで傷んで倒壊が進んでおり、敷地に立ち入ることはできないため、訪問を目的に向かうことはおすすめできません。ただし周辺のニセコ連峰一帯には、昆布温泉やニセコ湯本温泉をはじめ湯量豊かな温泉地が点在しています。かつての秘湯の面影をしのびながら、近隣の名湯をめぐる旅として楽しむのがよいでしょう。
【トリビア】
「秘湯」という言葉は、朝日旅行会の岩木一二三氏が生み出した造語とされ、一九七五年には温泉本来の魅力を守るための「日本秘湯を守る会」が設立されました。ニセコ薬師温泉は、その理念を体現する象徴的な湯として長く語り継がれています。日本三大秘湯のうち一つがすでに失われているという事実は、素朴な湯宿を守り続けることの難しさを、静かに問いかけていると言えるでしょう。




