【概要】
このわたはナマコの腸を塩漬けにして熟成させた塩辛で、能登地方などが名産地です。一匹のナマコからわずかしか取れない希少品で、独特の潮の香りと深い旨味が特徴です。熱燗に入れたり、そのまま酒の肴として、通好みの味わいが楽しめます。
【歴史】
このわたは、ナマコの腸を塩辛にした珍味で、能登が古くからの産地として知られます。延長五年、西暦927年に成立した『延喜式』には、能登国だけに課された貢納物として熬海鼠とともに海鼠腸の名が挙がっています。室町時代には能登を治めた畠山氏が足利将軍家や公家へ贈り、江戸時代には加賀藩の前田家が能登の名産として将軍家へ献上し、尾張や三河からも献上が行われたと伝わります。
【特徴】
原料には体色の赤いアカナマコが好まれ、取り出した腸を海水でていねいに洗い、重さの一割ほどの塩を加えて漬け込み、じっくりと熟成させます。細く長いひも状の腸が途中で切れずに美しく揃ったものほど上等な品とされています。強い塩気と磯の香り、こりこりとした独特の歯ざわりが身上で、好みは分かれるものの、このわたは酒好きにはたまらない味として長く知られてきました。
【食べ方】
そのまま少量を箸の先に取り、日本酒を含みながらゆっくり味わうのが定番の楽しみ方です。熱燗を注いだ盃にこのわたを少し落とすこのわた酒は、塩気と香りが酒に溶け出して独特の風味になる、通好みの飲み方として古くから知られています。塩気がたいへん強いので、温かいご飯や豆腐、大根おろしと合わせて量を控えめにすると、素材の旨味を穏やかに楽しむことができるでしょう。
【トリビア】
ナマコの身が締まる冬が仕込みの時季で、冷たい水に手を入れながら腸を傷つけずに取り出す作業には熟練の技と根気を要します。今も作り続けているのは石川県七尾市にある石崎の集落と、鳳珠郡穴水町の中居のあたりだけとされ、その希少さは年々増すばかりです。竹筒や小さな器に納めて売られる姿にも、古い時代から続く能登の食の風情がよく残されています。

