【概要】
島根県津和野町の芋煮は「山陰の小京都」ならではの上品な味わいが特徴です。焼いた小鯛から出汁を取り、里芋と鯛のほぐし身を合わせた澄まし仕立てで、柚子の皮を添えて楽しみます。江戸時代の十五夜の観月会から続く、藩政時代からの伝統料理です。
【歴史】
津和野の芋煮は藩政時代から続く400年以上の歴史を持つ伝統料理です。江戸時代の津和野藩では、十五夜の観月会に里芋を使った煮物を振る舞う風習があり、1894年(明治27年)の奉納額にもその様子が描かれていると伝えられます。「山陰の小京都」と呼ばれる津和野の文化的背景が料理にも反映され、武家の正式な膳にも供される格式高い料理として発展しました。現在も地域の親睦行事やもてなしの席で欠かせない郷土料理として受け継がれています。
【特徴】
津和野の芋煮は他の地域の芋煮とは一線を画す上品な味わいが最大の特徴です。焼いた小鯛から丁寧に出汁を取り、里芋と鯛のほぐし身を合わせた澄まし仕立てで、透き通ったスープは料亭のお椀を思わせる繊細さがあります。仕上げに柚子の皮を添えることで爽やかな香りが加わり、見た目にも美しい一杯に仕上がります。東北の力強い醤油味や四国の甘い味わいとは対照的な、素材の味を活かした品格ある芋煮です。
【見どころ】
津和野の芋煮は毎年秋の収穫祭やイベントで振る舞われ、地元の人々が集う交流の場となっています。城下町の風情が残る津和野の町並みを散策しながら、郷土料理店で本格的な芋煮を味わうのが観光客にも人気です。毎年10月の第3日曜には「芋煮と地酒の会」が開かれ、地元の地酒とともに温かい芋煮が振る舞われて多くの人でにぎわいます。殿町通りの掘割に泳ぐ鯉も見どころの一つです。
【トリビア】
津和野の芋煮に使う鯛は日本海で獲れた天然物にこだわる家庭も多く、焼いてから出汁を取ることで生臭さを消し旨味を凝縮させる技法が伝わります。津和野は森鷗外の出身地としても知られ、文豪も幼少期にこの芋煮を食べたとされます。「日本三大芋煮」のなかで唯一、魚を主体とした澄まし汁仕立てとなっており、内陸部の牛肉や鶏肉を使う芋煮とは対照的です。津和野の名は「つわぶきの野」に由来するといわれます。
